ステートメント 2021-8-11

敢えてキュレーターとしての立ち位置から自身の作品を眺めたとき、そこには作家と「場所」との間に友好的な関係性を打ち立てることが模索されているように感じます。20代以降、東南アジア、米国、メキシコ、コロンビアなど幸運にも多くの国に住む機会に恵まれたわけですが、そのことの一番大きな収穫は自分の人生にとっての「原点」といえるような瞬間がたくさん生まれたことではないかと考えています。パンデミックの影響のなか、もしくはそうした社会的事象とは無関係に人の生には迷いや行き詰まりがつきものなわけですが、そうした場面で立ち返る地点がたくさんあることーつまりそれぞれの国で生活を始めた初期、日々の記憶が書き込まれていく以前の、場所が未だ「まっさら」だった時期の気持ちに立ち返り何かをやり直すことができること―はこれまでとても有益なであったような気がしています。これまでの人生を通じて、自分はこのようないくつもの場所と原初的な体験で結びつくことを模索してきたのではないか、という思いがあります。

個人的な話になりますが、物心ついたころから学校や家庭と言ったノーマルな場所にはなかなか同一化することができない感覚的な不一致があり、本当に「安心できる」場所は電車やバスの中、路地と言った半ば匿名の、人類学者マルク・オジェが「非場所」と形容したような場所だったような気がしており、そのようなさまざまな場所と折り合いをつける必要性と向き合うことは日本を離れ15年経った今も変化がないような気がしています。そのように、自分にとっていろいろな場所を訪れそこに住もうとすることは、特定の場所と特別の関係を結ぼうとすること、通俗的な言い方をすれば自分の「居場所」を確保したいという欲求が奥底にあったのではないかと考えています。そこで場所は必ずしも日常的に明白な理由があって訪れ、通る場所とは限らず、自分がそこに存在するということの重みを測るための探知機のようなものであったのかもしれません。

そうした経緯から、北米の無機質なハイウェイや、中南米諸国の人でごった返す市場やバスターミナルなどで場所を凝視しカメラに収めることで、日々の目的性や実用性を引きはがされたいわば「生」の場所のありようを自分なりに模索してきたような気がします。人々がある一定の目的を果たすために外に出て街を歩くこととは別の、「場所」へのかかわり方の可能性が示唆されているように思われる一枚の写真。それはある場所に自分が存在しているという事実を、目的性ではなく、カメラで「写真を撮ること」によって正当化するプロセスと言っても良いかもしれません。買い物、通院、どこかでお茶を飲むこと、アートギャラリーに作品を見に行くこと、目的は何であれ自宅や普段いる場所を出て別の場所へ移動することで、何かが起きる、つまり社会的に受容されている「出かけることの目的」を果たすことのみに還元できない「場所」を経験することによる主体の有意味な変容があるのではないか。

ところで場所を経験するということは同時に、複数の場所同士の関係性やそれらが連続継起するさまに注意を払うことでもあります。当然ですが場所はそれ単体で存在するものというよりは、複数の場所を通り抜けていくことー移動や旅―によってはじめて現前するものであり、ある場所に至る仕方、つまり「経路」ということが重要な意味を持ってきます。私は写真家として、巡礼や観光というテーマにずっと興味を抱いています。四国88カ所霊場巡りでも、パリやニューヨークと言った都市で観光客がさまざまなサイトを歩いてまわることでもよいのですが、これら有名史跡や名所を巡ることで得られる「場所」の経験は何も個々の名所そのものに由来する知識や感慨には限定されず、より広範なものであるような気がしているのです。地下鉄やタクシー、徒歩でこれらのサイトを繋ぐルートを移動することで観光客や巡礼者はこれらの「場所」をむすぶルート―無数の場所の集合ーを経験するはずであり、そうした経験全体がひとつの「旅」の印象を形作っているわけです。

最後に私が提案したいのは、このような長く記憶に残るような「豊かな」場所経験の仕方は、何も海外旅行をしたり新しい場所を好奇心いっぱいで訪れる観光客や巡礼者の特権などではなく、自分が住んでいる国や街、もしくは自宅の近所などでも実現することが可能なのではないかということです。つまり、経路という主題を注意深く精査することで、場所の経験の仕方が変わってくるのかもしれない、ということです。そしてそうした「場所」の経験にフォーカスしたプロジェクトとして、これまでボゴタ市内を中心に一見無意味なサイトを目的地とする観光ツアーともいうべき、Nodo51フォトウォーク(#salidafotonodo51) を2021年2月より主催しています。

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